「仮想通貨の税金についての最新情報が知りたい」
「仮想通貨と仮想通貨を交換したときには税金がかからないって噂は本当?」
「もしかして仮想通貨って株と同じように申告分離課税制度になるの?」
こんなことを考えている方、いませんか?
そんな方のために最近議論されている出来事を踏まえて、仮想通貨に関する税金の最先端の情報について2018年5月時点で分かっている範囲を徹底的に解説したいと思います。
目次
「暗号通貨に関する租税制度研究会」の意見書(案)について
仮想通貨が盛り上がりをみせた昨年、国税庁も基本的にはほぼ全て「雑所得」という当面の見解を出し、本格的な確定申告にバタバタした人も多かったと思います。
(参考)2017.12.01「仮想通貨に関する所得の計算方法等について」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf
経験して感じたと思いますが、計算が難し過ぎますよね…というより理解したとしても煩雑過ぎます。
しかし、それは国側もわかっていて、申告期が来てしまったので現行法でとりあえずの対処をせざるを得なかったのが現状です。
あくまで当面の取り扱いであり、これが適しているとは考えていません。
このような課題がある中、仮想通貨税務の最前線では、この問題に詳しい学者先生や税理士・会計士等の各種専門家の方々によって、どう解決すべきか、日々議論されています。
今回は、そんな専門家の方々が有志で集まって行われた「暗号通貨に関する租税制度研究会」の意見書(案)の資料が一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)さんのサイトで公開されましたので、そこで検討された5つの「案」を中心に、仮想通貨税務の最前線の情報についてまとめたいと思います。
(参考)2018.04.10「仮想通貨の税制に関する私的勉強会からの意見書(案)の解説」の資料
①「仮想通貨同士の交換」に係る損益の繰り延べ(案)
「仮想通貨同士の交換」にかかる損益を、法定通貨との交換時点まで繰り延べることができるという案です。
「仮想通貨同士の交換」とは、
・ビットコイン(BTC)⇄アルトコイン(ALT)
・アルトコイン(ALT)⇄アルトコイン(ALT)
の2つですね。つまり、途中にいくらこの取引をしていても、計算不要とし、最終的に円にしたとき(円転時)のみ、「その時の時価」との差額で損益を把握し、その分の納税だけで足りるとする考えです。
この方法が採用されれば、「最初に円から仮想通貨を購入したときの記録」と、「最後に仮想通貨から円に変えたときの記録」だけ押さえておけばいいので、処理が大幅に楽になります。
②「少額非課税制度」の導入(案)
「20万円までの利益にかかる非課税制度」を導入する案です。
これは年間20万円までの利益なら計算不要とするイメージでいいかと思いますが、注意点があり、トレード目的の損益ではなく、基本的には仮想通貨を「モノやサービスの購入や決済で利用した場合」を対象とすべきと議論されています。
ちなみに、20万円という金額は他の既存の制度に準じた金額であり、それ以上の金額にするには新しい法律の枠組みがいるため、ハードルが高くなり時間を要することが予測されます。
実務的には「決済・購入目的」と「トレード目的」をどのように線引して判別するのかという問題が残ります。
③マイニングにかかる「課税」の繰り延べ(案)
マイニングで得た収益については、現状マイニングが成功しそれに伴って得た仮想通貨を「受け取った時点」で、「その時の時価」を計上することになっています。
さらにこれがそのまま課税所得になるところがポイントですが、この課税のタイミングを法定通貨との交換時点等まで繰り延べ可能とする案です。
これが、実現すれば、マイニングをして掘れた仮想通貨を保有しているだけでは税金がかからないことになります。
マイニングの収益は何を持って「受け取った」とするのか、その収益実現のタイニングの判断が難しかったのですが、その問題は解決されるかと思います。
ただし収益だけ繰り延べることはできません。
ここで「収益」の繰り延べではなく「課税」の繰り延べと表現されているのは、それに対応する費用(PCなどのマシン代、電気代、家賃など)も同じく繰り延べることを前提としていることに留意です。
ちなみに、これは「費用・収益対応の原則」といって、同じ事象に起因している費用と収益をできる限り同じ会計期間内に認識させようという会計の基本的な考え方からきています。
④「20%の申告分離課税制度」の導入(案)
仮想通貨の取引にかかる利益への課税方式を、株などと同様の「20%の申告分離課税方式」とする案です。
現在、仮想通貨の利益は基本的には総合課税方式(5%~45%)の雑所得という分類になります。これを分離課税方式にすると、計算方式が根本的に変わることになり、結果、税率が一律20%になります。
さらに加えて、損失について翌年以降3年間の利益(主に仮想通貨の利益)と通算することができるようになります。(「繰越控除」という)
留意点としては、対象を国内の登録交換業者での取引に限定し、それ以外の海外取引所等での取引は、今まで通り総合課税の雑所得として取り扱うことを検討してる点です。
これによって国内の登録業者を使うことを推奨できるため国側にとっても税収に繋がり、さらにそれが投資家保護にもなるメリットがあります。
⑤取得費(買った金額)が不明な場合の特例(案)
これは仮想通貨の取引にかかる税金を計算する時に、取得費(買った金額)が不明の場合、簡便的に「売った金額の5%」とできるようにする案です。
個人間での相対取引の場合など、事後的に取得した費用が不明瞭になる場合に使えます。
土地や建物の取得費が分からない場合、売った金額の5%相当額とすることができる制度がありそれを参考にしているようですね。
「暗号通貨に関する租税制度研究会」の意見書のポイント
同会では、上記5つの検討をした後、
①「仮想通貨同士の交換」にかかる損益の繰り延べ
②20万円までの「少額非課税制度」の導入
③マイニングにかかる課税の繰り延べ
の3つについて早急に改善要望を与党に提案していくことが必要と述べらています。
特に、①の「仮想通貨同士の交換」についてはすぐにでも検討が必要ではないかと強調されており、また、これらを進める中で、時間がかかるであろう④申告分離課税への切り替えを進めていくことが重要ではないかと議論されています。
「参議院財政金融委員会 藤巻健史(日本維新の会)氏国会答弁」について
これらの検討が最初に耳に入ってきたのは、今年の3月23日に行われた参議院財政金融委員会での藤巻健史(日本維新の会)氏の国会答弁が印象に残っています。当時Twitterでも話題になりましたね。
上記で整理してきた「暗号通貨に関する租税制度研究会」の意見書(案)においても、この藤巻氏の答弁がかなり考慮されていると感じたので少し触れたいと思います。
藤巻氏の主張
藤巻氏は、現状の仮想通貨の課税のあり方について、今の複雑な計算を求められる税制では利益の捕捉が不可能であると懸念した上で、以下の検討が必要ではないかと主張しました。
❏当面の「20%の申告分離課税」の導入
・国内FX取引が原則は雑所得だが、例外的に分離課税なのと同様ではないかと主張
❏「仮想通貨同士の交換」にかかる利益の繰り延べ
・機械同士が通信し合うこれからのことを考えれば、人が把握していけるものでもない、非現実的な税制になってしまっていると主張
❏交換手段(モノやサービスの購入・決済)としての利用はある程度の金額まで非課税の措置
❏マイニングにかかる課税について、取得時点での課税は担税力の観点からおかしい
・売却して初めて実現益がでるのではと主張
財務省側の主張
藤巻氏の主張を受けて財務省側も下記のような見解を示しました。
❏申告分離課税の導入について
・働いて稼いだ利益の最高税率が45%に対して、仮に仮想通貨で生計を立てた場合の税率が20%というのは、課税の公平の観点からなじまず、雑所得が妥当である
・日本円と外貨を交換した場合の為替差益も雑所得であり、それに近い行為であるため雑所得が妥当である
・他の分離課税扱いの先物取引などは、為替リスクの回避や、公正な価格指標の提供等、重要な役割があるため、幅広い投資家の参加を促すことが重要であり、国としても推奨していることである。仮想通貨をそれと同様に考えるのは難しい
・投資家保護規制を先に整備することが前提である
❏「仮想通貨同士の交換」にかかる利益の繰り延べについて
・現行法の原則的な考えからは今の処理(利益の繰り延べなし)が妥当である
・計算が複雑なのは理解できるため、対策を考える必要がある
❏マイニングにかかる課税については、取得時点ですでに支払手段としての財産的価値をもつため、取得時点の課税は妥当である
藤巻氏と財務省の意見のポイント
藤巻氏はこの答弁によって、申告分離課税にするための必要条件としては、政策的支援が必要かどうかが重要であるとの理解を示しました。
その上で、ブロックチェーン技術について、日本の将来を背負う可能性のある技術と賞賛し、
「仮想通貨とブロックチェーンはまさに表裏一体の関係にあり、これを国が政策支援しないのはおかしなこと、仮想通貨の税制の影響でブロックチェーンの将来を摘み取ってはいけない」
とも述べていました。
逆に財務省側の主張は現行法の原則を重んじている印象を受けます。
これは、ブロックチェーンや仮想通貨について、世間的にはまだまだ理解されていないことにも原因があるのではないかという印象を受けます。
確実に前進している仮想通貨の税制(まとめ)
今回は仮想通貨税務の最先端に向き合う専門家先生達の議論や、実際に国会で討論されている内容から、これからの税制改正のポイントとなりそうなことをまとめてみました。
ただしこれはあくまでも意見書(案)であり、確定したのものではありません。
仮想通貨に対する現行の対応は、その処理の煩雑さから、非現実的なものであることは明らかです。
税金の処理を簡単にすることで、市場参加者の増加やマーケットの活性化に繋がり、結果税収が増えることは容易に想像できます。
これまで日本は、仮想通貨に関する法律関係について、「改正資金決済法」や「消費税非課税」など、世界に先行していち早く対応してきた国といえます。
しかし、所得税法や法人税法について簡単には判断できない理由があります。
それは仮想通貨がこれまでにない仕組みでできた「新しい技術」であることに尽きるのだと思います。
このムーブメントの黎明期である今、今後登場する新しい利用状況を踏まえて判断しないといけないため、かなり難しい問題であることは確かです。
今回取り上げた研究会でも、「仮想通貨独自税制」として、現状の税制の改正ではなく、本来的に仮想通貨にかかるあるべき税制の姿を考えていくことが必要だとも議論されています。
例えば、「仮想通貨を購入する時点で消費税のように課税するだけで完結するような仕組み」や、「利用者に課税するのではなく、取引所自体へ取引税、トランザクション税として一括して課税する仕組み」などがあげられています。
その上で、まずは現状の税制改正で対応できる範囲を目標とすべきと議論されています。
一方国会では同じような議題が取り上げられてはいるものの、財務省側の意見は、仮想通貨やブロックチェーンに対して、可能性のある技術であることはわかるが、まだまだ得体の知れない側面もあるといったような印象を受けました。
今回検討してきた改正を実現するためには、仮想通貨やブロックチェーンが今まで以上に世間的な「理解」や「信用」を勝ち取ることが必要なのかもしれません。
私たち一仮想通貨保有者からしても、出口である税金の問題は重要なことです。
法律施行前の段階からどのような動きがあるのか、また世界と比べてどうなのか、といったことを意識しておくことは大切なことだと思います。
税金の問題は他にもICOや分散型取引所の場合など議論すべきことは山積み状態です。
近い将来、仮想通貨業界の発展において税制面での取り扱いが世界と比べてネックにならないような整備がされることを望みます。
仮想通貨LABでは「わかりやすさ」をモットーに、仮想通貨に関する税金の問題や、諸外国との比較など、今後も発信していきたいと思います。