ビットコインを始めとする仮想通貨にかかる税金について考えたことはありますか?
ビットコインの損益は確定申告を行う必要があり、原則的には雑所得に該当すると国税庁のタックスアンサーで発表されましたが、それでも取引ごとの具体的な計算方法などは不明な部分は多く存在します。
今回は色々な情報が飛び交っている仮想通貨にかかってくる税金について、現役の税理士監修の上で、ほぼ網羅した情報をお伝えしていきます。
目次
【ビットコインにかかる税金について国税庁の答え】
仮想通貨の中でも最も時価総額が高いのがビットコインです。そのビットコインに関連する税制については国税庁が発表した「タックスアンサーNo.1524」がポイントとなっています。
タックスアンサーNo.1524 ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係
[平成29年4月1日現在法令等]
ビットコインは、物品の購入等に使用できるものですが、このビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象となります。
このビットコインを使用することにより生じる損益(邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益)は、事業所得等の各種所得の基因となる行為に付随して生じる場合を除き、原則として雑所得に区分されます。
さて何やら分かったような、分からないような文章ですね。
ビットコインにかかわる税金は原則として雑所得のようですが。
このタックスアンサーで重要なのは次の二点です。
・「ビットコインを使用する」の「使用」の範囲
・「邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益」の解釈
ではそれぞれ見ていきましょう。
ただし注意点として、今回の国税庁の回答はあくまでタックスアンサーであって、法律ではないということです。あくまで暫定的に取り決めているものであるということは留意しておいてください。
【「ビットコインを使用する」の「使用」の範囲】
ここで重要なのは何がビットコインの使用に該当するかということです。
では具体的な例を上げてどのようにビットコインを使った場合が課税対象となるのか見ていきましょう。
■明らかに課税対象に含まれるもの
基本的にはビットコインを日本円などの法定通貨と交換・取引、もしくはそれに似たような方法で使用した場合に課税対象となります。
・ビットコインを日本円と交換、売買取引をすること
これが一番多いでしょう。円⇒ビットコイン、ビットコイン⇒円に交換したときの売買損益が課税対象となります。
・ビットコインで商品・サービスを購入、使用すること
支払ったビットコインを手に入れたときの価格と商品・サービスの価格の差が利益となって課税対象となります。消費税に関しては後述しますが、2017年7月以降非課税となっております。
・ビットコインデビットカードを使用すること
ビットコインをチャージやウォレットと連携することによって、通常のデビットカードと同じように使用するのがビットコインデビットカードです。
ビットコインデビットカードには大きく二種類あります。
ビットコインを対象のデビットカードにチャージしたときに、日本円やドルに変換する形式のものと、
ビットコインデビットカードを使用する際にチャージしていたビットコインを日本円やドルに変換する形式があります。
チャージ時に変換する方式の場合は、チャージしたときに日本円又はドルへと交換したとみなして、ビットコイン取得時とチャージ時点のレートの差が課税対象に、
使用時に変換する方式の場合は、使用の際にビットコインで商品を購入したとみなして、ビットコイン取得時とビットコインデビットカード使用時点のレートの差を課税対象とします。
同じビットコインデビットカードとは言っても、種類によって課税対象となるタイミングが違うので、注意が必要です。
・ビットコインFXの取引
ビットコインを利用した証拠金取引のことです。取引の最終段階でビットコインを受け取れるイメージです。これは源泉分離課税のFX扱いにはならず、総合課税(雑所得)のビットコインの取引として扱われます。
・ビットコインとビットコイン以外の仮想通貨(アルトコイン)の売買取引
ビットコインと他の仮想通貨(イーサリアムやリップルなど)を売買したときに発生する損益です。
国内大手取引所のbitflyerが国税庁に確認した結果、このケースも課税対象となるという返答だったという情報があり、課税対象となると考えていいでしょう。
・アルトコインとアルトコインの売買取引
ビットコイン以外の仮想通貨同士の取引のことです。ICO(トークンセール)もここに該当します。タックスアンサーでは一番規模の大きい仮想通貨であるビットコインしか言及していないため、宙ぶらりんとなってしまっています。
「邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益」という文章であやふやにすることで、アルトコインへの課税に対して含みを持たせていると考えていいでしょう。
アルトコイン同士の売買取引の結果の損益も課税対象として考えるのがいいでしょう。
・マイニング(採掘)により取得したビットコイン
ビットコインの特徴として、マイニング(採掘)を行って新しいビットコインを取得できるというのがあります。
マイニングの結果、獲得できたビットコインについても課税対象となりそうです。
マイニング報酬については長い間議論されていましたが、2017年9月18日の税務通信でマイニング報酬についても、課税対象とするべきという文章が発表されました。
あくまで税理士の方の参考として掲載されたに過ぎませんので確定ではありませんが、その方向で動くのは間違いないでしょう。
■課税対象とはならないもの
・自分の所持するウォレット間の移動
仮想通貨を保管しておく電子的な財布をウォレットといいます。このウォレットはいろいろなところで作ることができ、自分が持っているウォレット間でビットコインを移動させても課税対象にはなりません。
自分の持っている財布から別の財布にお金を動かしたからといって税金が発生するわけはありませんね。
ただし他人の所持しているウォレットにビットコインを贈与という形で、年間110万円を超えて移動させた場合には、申告の必要が出てきて贈与税が発生します。
当たり前と言えば当たり前ですが、売買対価としてや借金の返済のためにビットコインを移動させた場合は贈与に当たらないので、覚えておいてください。
・保有しているだけ
持っているだけでは、課税対象となりません。その間、仮想通貨の価値が上下しても、日本円などと交換するまでは課税対象外です。
※アメリカでは非課税枠の発表がありました。2018年1月から年間取引額600ドル未満は非課税とのことです。日本ではまだそのような発表は出ていませんのでご注意ください。
【「邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益」の解釈】
これは簡単に言うと為替差損益のことです。ビットコインの取引に伴って発生する損益のことです。何が重要なのかというとビットコイン以外の仮想通貨、アルトコインをどの範囲まで含んでいるのかということです。
たくさんのICO(トークンセール)の結果、アルトコイン(トークン)が多数存在し、それらすべてのトークンが課税対象となるのかということです。その部分に関してはまだ明確な範囲の回答はございません。確定申告や決算の際に随時確認していただいた方が無難でしょう。
※仮想通貨取引所上場がトークンから仮想通貨への変更と基準点であるという考え方が主流ですが、明確なことは決まっていません。
またアルトコイン同士の取引の際も、どのレベルのアルトコインまでが課税対象なのかについても解釈が割れしまっており、明確な答えはありません。
【他の税金との関係】
■法人税とビットコインの関係
今まであげていた事柄が課税所得であることは変わりありません。法人税においてはそれがメインの売上になるのか営業外収益になるかの違いしかありません。
ただ保有している仮想通貨について、2017年10月5日に日本の会計基準をつくる企業会計基準委員会(ASBJ)が仮想通貨の期末時価評価に対する見解を示しました。
ポイントは以下の3点です。
1)時価で貸借対照表に形状。期末に時価評価し直し、簿価との差額を損益として計上。
2)取引実績が最も多い取引所の価格を時価とする。
3)流動性の低い仮想通貨は取得原価で貸借対照表に計上。
※企業会計の話になりますが、期末時価評価したとは言っても、それは決算辞典の一時的なもので、翌期の頭に洗替処理といって、プラマイゼロにする会計的な処理を行います。
これはあくまで企業会計基準に関することなので、個人には関係ありません。
■消費税とビットコインの関係
2017年6月30日以前の取引に関しては、消費税を含みますが、それ以降は非課税となります。
《参考:平成29年度税制改正大綱》
資金決済に関する法律に規定する仮想通貨の譲渡について、消費税を非課税とする。
それ以前に消費税課税事業者に該当していた場合は消費税の納付義務が発生しますので、注意が必要です。
■贈与税とビットコインの関係
他人のウォレットにビットコインを贈与として移動させたときに発生する可能性があります。その額が年間110万円を超えると申告の必要が出てきて、贈与税が発生します。
【ビットコインに発生する具体的な金額】
どういったことが課税対象になるのかは、お分かりいただけたと思います。
ただこれだと実際に税金としていくら持っていかれるかピンと来ない方がほとんどでしょう。ビットコインに関わる税金は原則的には雑所得ということが分かったので、それを元に考えてみましょう。
■事業所得とするためには
個人事業主の場合で形式的に開業届を提出しているだけでは駄目です。
例えば「事業として継続的にビットコインの取引を繰り返す」、「事業者が事業用資産をビットコインで購入」、「マイニング(採掘)でビットコインを取得(マイニングで利益を得るためには、相当の資本を投下する必要があるので、事業に当たると考えられます)」などの場合は事業所得として考えられるケースです。
事業的規模でビットコインを使用しているのかどうかを判断するのは、「反復・継続・独立」であって実質的な部分です。
ビットコインの利益を事業所得にしたいからといって無理やり開業届を提出しただけでは、事業所得とみなされるのは難しいかもしれません。
■雑所得の損益通算
税制上の所得のうち、雑所得に該当するということは他の所得との損益通算(利益も損失も全部足して考えること)はできません。ただし同じ雑所得同士なら可能です。
また株式の譲渡益のように申告分離課税の対象とはならず、3年間は繰越欠損金として控除するということもできません。
■ビットコインに課税される雑所得の具体的な計算方法
個人の雑所得ならば関係してくるのは「所得税」と「住民税」です。雑所得に発生する所得税は累進課税を採用しているため、金額によって税率が変わってきます。下記の表をご覧ください。
仮想通貨の利益 | 所得税率 | 控除額 | 住民税率 |
195万円以下 | 5% | 0円 | 10% |
195万円~330万円 | 10% | 97,500円 | 10% |
330万円~695万円 | 20% | 427,500円 | 10% |
695万円~900万円 | 23% | 636,000円 | 10% |
900万円~1,800万円 | 33% | 1,536,000円 | 10% |
1,800万円~4,000万円 | 40% | 2,796,000円 | 10% |
4,000万円~ | 45% | 4,796,000円 | 10% |
さて上の表を元に計算してみましょう。
仮想通貨の利益が100万円の場合
所得税(1,000,000円×5%-0円=50,000円)
住民税(1,000,000円×10%=100,000円)
合計 150,000円
仮想通貨取引の利益が500万円の場合
所得税(5,000,000円×20%-636,000円=364,000円)
住民税(5,000,000円×10%=500,000円)
合計 864,000円
仮想通貨取引の利益が5,000万円の場合
所得税(50,000,000円×45%-4,796,000円=17,704,000円)
住民税(50,000,000円×10%=5,000,000円)
合計 22,704,000円
※表を参考に計算すれば数字上は問題ないのですが、実は利益が330万円から331万円になったからいって、急に所得税率が10%から20%に跳ね上がるわけではありません。オーバーしている1万円に対しての所得税率だけが、20%で330万円に対しては10%のままなのです。わざわざ分けて計算するのが面倒なので、控除額という形で整合性をとっているのですね。(計算していただければお分かりになるかと思いますが、厳密に計算した場合と控除額を差し引いた額は同じになります)
【仮想通貨の課税関係まとめ】
ビットコインを始めとする仮想通貨に関わる税金は、タックスアンサーや税務通信、企業会計基準委員会の見解などで、ある程度の方向性が決まってきました。
しかし原価計算などの計算については、移動平均法を使うのか総平均法を使うのか、取引所によってレートが様々で、どのレートを使えばいいのかなど、まだまだ不明確な部分が多く存在します。
税務署に問い合わせても担当者によって答えがまちまちという声も出ています。分かっているところは、ほぼ全てお伝えさせていただきましたが、遅くても2017年内にはタックスアンサーという形ではなく、税制上の法整備をお願いしたいというのが率直な思いです。
《監修》公認会計士・税理士 鯉淵拓真
[プロフィール]有限責任監査法人トーマツに入社し、